表紙作品


岡田 敏氏作 「G」



掲載誌 近代将棋
出  題 1978年8月

近代将棋入選100回
記念作品



    【 発表誌解説より 】

    担当:吉田健
 初手何でもない5七金が仲々打ちにくい。6九桂の活用を期待して、4七金と控えて打つ手が有力な筋としてうつるからである。 6七玉と逃げる一途であるが、5七金、6八玉、8八飛、5九玉、7七桂、6九金合、同竜、同玉、3六馬、同銀、6八金、5九玉、 5八金打、4九玉、8九飛迄で、おやおや詰んでしまった。余詰かな、ということにもなりかねない。 実は、この読みには穴があるわけで、手順中8八飛に対し、一旦7八香合と捨合をされるとどうだろう。 誂えたような逃れがあったもので、解図の鬼も三舎を避けたとかいう、作者ご自慢の紛れである。
 作意手順に戻って、7五の地点には合駒の綾が二度からむ。まず6手目では金合を強要。 この金を使って、7四と、7五金と凝り型になるほど左辺を固めておいてから、一転右辺をばらして行く。 17手目3五金の時、一瞬5五玉の不安が脳裏をかすめるが、4六金以下3六馬の働きがあってきっちり把まる。味のいい変化である。
 3四馬と据えた所で、局面はぐっとしぼられて来るが、初手のヤボったく打った金と、更には11手目の重く下した金を、 夫々鮮やかに消し去ってしまう二段活用の駒繰りなど、まことに憎らしいほど旨い構成ではないか。 岡田流曲詰の楽しさがほのぼのと匂い立つ手運びである。
 5七桂と待望の桂が舞台に出て、7五に再び合駒の綾。今度は桂合の小味なあしらいを忽ち切って落して、 その桂の活用によって、見事な「G」の字が結ばれる。文句なし。
 作者には既に「あぶり出し曲詰についての考察」という論考があって、今後の曲詰のあり方として、「いたずらに難解」を求めず、 「機械的捨駒のみの単調な手順」に堕さず「適当な紛れ、変化を含んだ好手順」をもって「詰上りの絶対性を保持」した作品を作るべきだ、 とその理想を述べておられる。 ここに言う「詰上りの絶対性」とは、収束において「玉方がどう対応しても、はっきりと字が浮き出る」ことであり、 玉方に手伝ってもらってはじめて字になるといった安易さを、岡田氏は潔癖に拒否しておられるのである。
 さすが"人選百回記念作品"として出題されただけあって、本作あたりはこの理想をもほぼ満足させる出来栄えと拝見するのであるが、 大方のご意見は果して如何であろうか。
 なお、詰上りの「G」は"GLORY"のイニシャルであるとは作者の言葉である。